
配信歴14年。プロゲーマー、YouTuber、TikTokトップライバー、eスポーツチームオーナー、建設会社経営者、ライバー事務所運営──。現在はいくつものビジネスと肩書きを持ちながら、本人は「何者でもなかった」と語る。2026年2月、自身初の著書『推しビジネス! 顧客をファンに変える「感情経済」の経営戦略』を出版したヒデヤスch(佐藤英康)。3月31日のライブ配信休止を目前に控えた彼に、本を通じて届けたかったもの、14年の配信人生、配信業界に対する想い、そしてこれからについて語ってもらった。
ヒデヤスch(佐藤英康)

Bushido Gaming」オーナー、ライバー事務所「Sugar Village」アンバサダー。クラッシュ・オブ・クラン元日本代表プロゲーマー。ツイキャス、YouTube、Mildom、Mirrativを経てTikTokライバーへ転身し、配信歴は約14年。TikTokフォロワー12万人超。
主なイベント実績:TikTok LIVE ALL STARS 2022リアルタイムランキング3位、殿堂(週間)ランキング1位、第3回マスターズカップ1位ほか多数。社会活動として、東日本大震災や広島呉災害豪雨などの被災地ボランティア、自社での募金活動にも取り組む。
2026年2月26日、初の著書『推しビジネス! 顧客をファンに変える「感情経済」の経営戦略』を発売。2026年3月31日をもってライブ配信活動を休止。
■ SNS・書籍情報
X(旧Twitter):https://x.com/hideyasuch
TikTok:https://www.tiktok.com/@hideyasuch
Instagram:https://www.instagram.com/hideyasuch/
書籍:『推しビジネス! 顧客をファンに変える「感情経済」の経営戦略』(2026年2月26日発売):https://www.kizuna-pub.jp/book/4952/
書籍『推しビジネス!』について
── 改めて、書籍の出版おめでとうございます。本を出そうと思ったきっかけを教えてください。
活動が今年で14年目になりまして、13年が経過したタイミングで、いったん配信を休止しようと決めたんです。今まで培ってきたものや配信で得てきたものを、何かひとつのメディアにまとめたい。それがきっかけでした。
ちょうどそのタイミングで出版社の方から「本を出してみないですか」とお声がけをいただいて。普通、インフルエンサーや配信者が本を出すとなると、表紙に自分の顔を載せたりするのが一般的だと思うんですけど、どうしても中身で勝負したかった。だからこのような表紙にして、本当に「読まれる本」にしたいと思って作りました。
── 休止を決めていなかったら、本は書いていなかったですか。
いえ、いずれは書いていたと思います。ライバーとしての長い経験に加えて、事務所を始めて人を育てるようになって、成果が出るようになったんですよ。今は所属クリエイターが約500人いるんですけど、最初はたった4人からで、6ヶ月かけてマネジメントしたんです。50〜60人くらいから「事務所に入りたい」とお声がけをいただいたんですけど、全部断りました。
自分がプレイヤーとして配信することと人を育てることは、まったく別の能力が必要だと思っていて。たくさんクリエイターが入ってくれても育てられなかったらどうしよう…とすごく考えたんです。だからまず知り合いの4人を選んで、6ヶ月かけて全員を月間獲得ダイヤが3M(300万=約500万円分の有料ギフト)クラスのライバーに育てました。「これはいける」と確信してから事務所を拡大して、そのノウハウもこの本に少し入れています。
あと、業界的に矛盾というか、配信者さんとリスナーさんの間にある部分を本にしたかったんです。それをまとめたら、両方が読んでくれたときに分かり合えるんじゃないかなと。さらにビジネスにも通じる話として落としどころを作ったので、配信を知らない人にも届く本になったと思います。
── Xの投稿で「何者でもなかった僕ですが」と書かれていました。あえてこの言葉を使った理由を聞かせてください。

本当に小学校のときから貧乏で、母子家庭でした。父が自殺で亡くなって、借金取りが家に来るような状態の中、中国語しかほとんど喋れない母親に育てられたんです。絵に描いたような貧乏で。
ただ、ゲームがすごく好きだったんですよ。でもゲーム機すら買えなくて。大人になってから、そのコンプレックスからかゲームにすごく課金するようになって、気づいたらプロゲーマーになっていたんです。
プロゲーマーになって初めてファンの方がついてくれるようになって、当時のTwitter(現X)ではフォロワーが25万人くらいいました。「プレイを見たい、教えてほしい」と言われて、最初は文字で送っていたんですけど、それじゃ無理じゃないですか(笑)。それでツイキャスやYouTubeで配信を始めたのがきっかけだったんです。
ーープロゲーマーとのことですが、当時はどこからが「プロ」だったんですか。
クラッシュ・オブ・クラン(クラクラ)の初代日本代表として、ヘルシンキで開催された世界大会にも出場しました。トーナメント初戦で中国と当たって敗退したんですけど、その中国が優勝したんですよ。ただ、当時は「プロゲーマー」とか「eスポーツ」という概念自体がまだなかったんです。日本代表と言っても報酬はなくて、飛行機代とホテル代が出るくらいで。
「ゲームが仕事になればいいな、稼げればいいな」とずっと思っていました。
だんだん世の中にプロゲーマーやeスポーツが出始めて、大人になって自分も少しお金を持てるようになったんです。そのときに、あの頃の自分と同じ気持ちを持っている若い子たちの夢を叶えたいと思って、eスポーツチーム「Bushido Gaming」を作りました。正直、何億というお金をeスポーツにつぎ込んで、ほぼ回収できていないですけどね(笑)。
── Bushido Gamingからどのようにして今の活動につながっていったんですか。
Bushido GamingにはTikTokがスポンサーについてくれて、それがきっかけでTikTokとの関わりが生まれました。日本でTikTokのゲーム配信を一番最初にやったのは、たぶん僕です。YouTubeでは荒野行動の実況者として月300〜400万円くらい、動画再生(に応じた広告)とスーパーチャットで稼いでいました。
そこから知名度を得て、ライバー事務所をやったり、建設業も個人事業主から法人化したり。配信を始めるまでは本当に何者でもなかった。謙虚に書いたつもりじゃなくて、本当に何者でもなかったんです。今の僕の人生も、結婚も、子どもも、配信がなかったら多分なかったです。
── 企画から執筆、完成までのプロセスを教えてください。

8月に出版社からお声がけをいただきました。8月の終わりに社長との面談があって、こんな見た目をしてるんで「どんな人かわからない」と(笑)。「推しの本を書くなら、私が推せなきゃ出さない」と言われたんですけど、面談してみたら逆に社長が虜になってくれたんです。「私が編集をやりたい」と、編集長である社長自ら担当してくださいました。
9月から書き始めたんですけど、実はその間に盾イベント(現 LIVE グランプリ / TikTok LIVE最大級イベント)にも参加していて、その次の11月の盾イベントの最中も執筆していました。ほぼ眠れない4ヶ月半を過ごして、1月の頭には原稿が完成しました。
── 執筆中はどのような想いを持って活動をされていましたか?
正直、葛藤がありましたね。ちょうど2025年は1年間TikTok LIVEでのイベントを走ると決めて、リスナーさんと一緒に駆け抜けていたので。執筆に時間を取られる分、配信時間がどうしても落ちてしまって。でも大事なのは配信での結果ですし。配信時間が落ちている中で執筆を続けるのは、結構苦しい時期でした。
── 本書の想定読者は、どのような方を意識しましたか。
まず一番は配信をされているライバーさんに届いてほしいです。色々な配信の形があって、どれも素晴らしいコンテンツだと思うんですけど、配信者が上でリスナーが下、みたいなポジショニングを取るスタイルが今のTikTokでちょっと流行っていて。
喧嘩コンテンツや炎上って、ニコ生の頃から当たり前にあったものですけど、僕はずっとそういうのが好きじゃなかった。「ライバーを職業へ」という思いがあるので、ああいうスタイルは美しくないなと思うんです。
それから、リスナーさんにも届けたかった。ライバーになってから、身を削ってギフトを投げてくださる方がめちゃくちゃ多いと痛感しました。破産するところまで投げてしまう人もいる。そういう方が少しでも減ってほしいし、節度ある楽しみ方を知ってほしい。
さらにビジネスの話も入れたのは、配信業界の外側にいる人たちにも配信のことを知ってもらいたかったから。配信業界がもっと盛り上がるには、外部からの誘致が一番大事だと思っているんです。実はターゲットが何層にも分かれている本なんですよ。
本当のターゲット層は、まだ配信を見たことがない人たち。推しを探すために「ちょっと配信を見てみようかな」と思ってくれたら、それが一番嬉しいですね。
── この本を通して最も伝えたかったメッセージは何ですか。

今のTikTokはライバー事務所が増えて、スカウトも「稼げるよ」とお金を前面に出しているところが多いです。
それが大事なのは分かりますが、
配信を通して人の笑顔が増えたり、心が豊かになる人を増やすことこそが配信の本質であってほしい──。その方が業界は長く続いていくと思うんです。今の配信業界にちょっとメスを入れたいと思って、本にしました。
── 出版後、ファンやSNSでの反応はいかがでしたか。
恥ずかしいんですけど、「ヒデヤス先生」って呼ばれるようになりました(笑)。ちょっといじりも入ってますけどね。
僕は普段から配信でも裏表なく物事を言語化できる性格なので、リスナーさんにとっては普段話しているようなことも含まれているんですけど、それが少しでも多くの人に届いて、いろんなライバーさんから「読んで考え方を改めようと思った」という声をいただけたのは、本当に出してよかったなと。そして、思っている以上に売れていて、それもびっくりしています。
── ライバーが本を出すということ自体、まだ珍しいと思います。ご自身の中での意味合いを教えてください。

ちょっと言葉を選ばずに言うと、自分のことを外に知ってもらうためのマーケティングの一環という側面はあると思います。でも僕の場合は、長い配信歴で得た経験を、休止するにあたってひとつの形に残したかったという気持ちがすごく強かった。攻略本じゃないけど、1つの形にしたかったんです。
これから色々なライバーさんが本を出していくことは、外に「ライバー」という仕事を届けるという意味で、すごくいいことだと思います。簡単なことではないですけどね。
ライバーって、インフルエンサーと違って目の前の人たちと喋る世界だから、どうしても視野が小さくなりがちなんですよ。動画みたいに不特定多数に届くわけじゃない。だからこそ「配信」というメディアの良さを外に発信することが必要だと思っていて。そういう意味では、書籍はすごくいい手段だなと感じました。
── 本書のテーマである「推される力」を、一言で表現するとしたら。
愛ですね。推すのも推されることも、両方とも愛だなって思います。
本にも書いたんですけど、たとえば「この美容師さんがいいな」とか、野菜のポップを見て「この農家さんの野菜がいいな」とか。その農家さんのことを知っていたら、なおさら「この人のほうが安心だな」と思う。昔からそういう「気づいたら」というものはあったはずなんですよ。気づいたら隣の駅まで買いに行ってた、あの人から買いたい、あの人に切ってもらいたい──。そうした身近な感覚が言語化されたのが「推し」という言葉だと思うんです。その「気づいたら」というところに、推される力の本質があるのかなと思っています。
実は僕自身、人生で誰かを「推した」ことが一度もなかったんですよ。アーティストもスポーツ選手も、何かが好きという感覚が一度もなかった。流行りの曲を聴いて、日本代表戦だけ見て、別にサッカーも野球も好きじゃないっていう。「推し」という言葉を理解できない人だったんです。すごく身近な人だけ大事にしたいという性格なので。
だから自分が「推される」ようになって初めて、推しの意味がわかったんです。この本は、まず推すことから始めようという観点で書いています。推したことがないからこそ、逆転の切り口で入れた。推す・推されるという文化を知れば、自然と誰かを推すようになるし、推していた人はいつか人に推される存在になる。そういう循環があると思っています。
〈インタビュー|後編〉人気ライバー・ヒデヤスch(佐藤英康)、配信歴14年の軌跡と無期限活動休止の決断 ー配信からすべてをもらった男が、ライブ配信業界に残したもの

〈ライブタイムズ編集部〉