
鈴鹿央士だからこそ『喧嘩独学』では魅力的な主人公が出来上がったのだろう。
近年、『六本木クラス』や『silent』といった話題作に出演を続けている鈴鹿。元々は『MEN’S NON-NO』専属モデルオーディションでグランプリを獲得したのが最初のブレイクスルーだったが、ここ最近の活躍を見れば「モデル」よりも「俳優」の肩書が先に来るかもしれない。
前述の『六本木クラス』では偏屈な学生役(後に成長)だったが、鈴鹿らしさが見られるのはやはり柔和で心優しきキャラクターのときだ。春クールで出演していた『リボーン~最後のヒーロー~』でも社長を信じ続ける友野達樹役を演じ、やはりピュアな思いを抱える姿が彼にはよく似合っていた。
そして、今月11日に『Netflix』で配信された『喧嘩独学』では主演の志村光太役に抜擢。タイトルにある「喧嘩」は彼にはミスマッチにも見えるが、志村というキャラクター自体は心優しき高校生だ。
病気の母を思いながら、高校生活を耐えるいじめられっ子。そんな彼が稼ぐために選んだのが素人の喧嘩配信であり、拳を振るうことで母を救おうとする。
映像を見ながら「独学」で戦いを学んでいく志村。ここで覚醒して一気に強くなってしまえば、鈴鹿のイメージとの乖離も生まれてしまいそうなものだが、志村が上る階段は一歩ずつだ。
はじめは殴られても痛くない方法を学び、やがてカーフキックを覚え、少しずつ成長していく。その歩みの中で惨めな負けも経験しており、鈴鹿の苦しげな繊細な表情も相まって同情心を誘う。
決して劇的に強くはならないし、相手を圧倒してタコ殴りにするわけでもない。だからこそ、応援したくなる主人公像が着々と立ち上がってくる。元来鈴鹿が持つ柔らかなイメージと、志村というキャラクターが持っているなよっとした雰囲気が合わさったことで生まれた化学反応だろうか。そんな男が喧嘩に目覚め、ボロボロになりながら戦い抜くのは得も言われぬ感動を呼ぶ。
また、高校生らしい恋愛や周囲との付き合い方のシーンも鈴鹿だからこそ、すんなりと入ってくる。実年齢(26歳)こそギャップがあるが、童顔で気弱にさえ見える鈴鹿が片思いしている女子にドキドキしたり、周りに下手に出るのはあまりに自然で、等身大の学生を過不足なく演じきっている。
あらゆる武器を存分に発揮していた鈴鹿。『喧嘩独学』という作品は、“強い主人公”ではなく“成長を続ける主人公”を選んだ。その選択を成立させたのが鈴鹿央士だったのではないか。
ヒーローは必ずしも無双する必要はない。むしろ、弱さを引き受けたまま前に進む姿のほうが、現代においてはリアルだ。
殴られ、倒れ、それでも立ち上がる。その一つひとつに説得力を宿らせる鈴鹿の演技があったからこそ、『喧嘩独学』は単なる成長譚にとどまらない共感の物語へと昇華された。
〈ライブタイムズ編集部 / 文:まっつ〉※本記事は分析・考察を含むコラムです。